· 

神様百名山第55座・槍ヶ岳

すっかり間が空いてしまいましたが、今月はあの槍ヶ岳に行ってまいりました。

神様百名山も第五十五座目。江戸時代後期の念仏行者播隆上人の足跡をたどる旅です。

 

本文にも書きましたが、播隆上人が槍ヶ岳に登ったのは、あと数十年で、文明開化の明治という時代。

播隆上人を偉大な初期アルピニストとという捉え方をされる方もおられますが、

 

私は逆に、播隆上人は日本の山岳信仰の歴史が咲かせた最後の華だったのでは、と思っています。

 

アルピニズムはヒューマニズム(ざっくりいうと、人間中心、人間最高!という価値観)という価値観、それに対し、日本の山岳信仰はあくまでも、山が主体、神が主体で、それに向かって修行をしていく、あるいは恩恵を頂いてひっそりと暮らしていく、という考え方です。

 

神という言葉に抵抗があれば、大自然と置き換えても、さほど違いはありません。

 

播隆上人を題材にした新田次郎の『槍ヶ岳開山』という小説がありますが、

この中で、播隆上人が蘭学者の高野長英(シーボルトの弟子)にあい、

山頂で見た阿弥陀如来の来迎について、科学的にどう思うか?という質問を投げかけます。

 

高野長英は、それはドイツで解明されたブロッケン現象かもしれず、日輪出現の原理は解明されている、播隆上人に向かって冷静に伝えます。

 

それを聞いた播隆上人は、一瞬、がっくりきてしまい、自分の見たものは何だったのか?と自身の信仰の揺らぎを感じてしまいます。

 

しかし、これにたいする高野長英の言葉が素晴らしいのです。

 

ようやくすると、

 

「地球上の物理現象はどんどん解明されていくが、あなたの心の心象というものは、どこまでいっても、あなた自身の問題であり、ある物理現象を見て、それをどう捉えるかについては、それは他人は全く関与できない。あなたがそれを阿弥陀如来の来迎だと感じたならば、それはあなたにとっては阿弥陀如来に違いないのだ

 

とこんなようなことを話します(手元に本がないので記憶違いかもしれませんが)

 

これを聞いて播隆上人は、一瞬ゆらいでしまった自分を恥じ、再び山に向かうのでした。

 

ヨーロッパでは、すでに19世紀には「神は死んだ」ということが哲学的にも、社会的にも認識されましたが、

日本には、まだ文化としての信仰が残っています。宗教行為と認識されない、お正月やお祭りや儀礼のことですね。

 

ヨーロッパで、信仰が完全に死んでしまったのでは?、と思わせる出来事が、ありました。

それは今年4月のノートルダム大聖堂の火災です。

 

火災そのものよりも、火災のあと、多額の寄付を申し出たヨーロッパの富豪たちに対し、民衆の多くは

 

「そんな金があるなら、自然災害の復興にまわせ!」

「移民問題のほうが先だろ!」

「福祉に金を使え!」

 

という声があがったそうです。

このノートルダム大聖堂というのは、実は当時の多くの人々の無償の働きによって建てられたものなのです。

今日の食べ物に困っても、自分の食べ物よりも大切なものがある、という無数の人々の働きによって、ノートルダムはつくられ、それが偉大なヨーロッパの象徴でもあったのです。

 

日本でいうと、法隆寺のようなものでしょう。

法隆寺や奈良の大仏が焼けてしまって、例えばホリエモンや孫正義が寄付を申し出たら、「千葉県の復興が先だろ!」「年金問題に金をまわせ!」というようなものです。

 

おそらく、ごく少数の人々はそのようなことを言うかもしれませんが、

まだ国民の大多数は、自分が困っていても法隆寺の再建に力を貸すのではないでしょうか。

 

そんなふうに、なぜ日本にだけ、わずかなりとも残っているのか。

形だけでも、山岳信仰が残っているのか?

 

それは、登山と信仰の本質がそもそも不合理だからであり、

日本には、播隆上人のようにお金にもならない行為、不合理に一生を捧げた人々を、無条件に尊敬する土壌が残っているからなのでは、と思うのです。

 

クレイジー・ジャニーを見て(ヤラセが発覚して心底残念…)

「このひと、マジヤバいよ」といいながらも、心のどこかでは憧れてしまう心持ち。

 

職人や匠のように、物作りに一生を捧げた人々のスキルを「神技」として、ひれ伏してしまう気持ち。

 

そういった心が、私たち日本人の中にも、まだまだ残っているのではないかと思うのです。

そういった多くの無名の播隆上人がいたからこそ、伊勢神宮も、出雲大社も、地域のお祭りもまだ残っているのではないかと思うのですね。

 

そんなことを考えながら、槍ヶ岳に登ってきました。

ランドネ11月号発売中です。

 

YH

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日ランドネ11月号発売中です。